院長ブログ

笑顔の人

2023年4月26日

 また一人大切な患者さんを見送った。その人はいつも笑顔だった。毎月飲みに誘ってくれた。旅行にも何度か誘ってくれた。結局彼女の一番好きなお酒を一緒に飲みに行くことは無かった。

 毎月聴診していた彼女は、約4年前のあるときから恥ずかしいと言って聴診をさせてくれなくなった。それから何ヶ月か経つと左の乳房から出血が止まらないと緊急受診。明らかに乳癌だった。肺、骨、肝、そして脳まで転移していた。「もう他の医者にはかからない!」と他医療機関を紹介した僕にいつもの笑顔で言った。3年半、信頼する乳腺医の先生に相談しながら、化学療法とホルモン療法を続けた。小さくなる病変と減っていく腫瘍マーカーに、甲斐甲斐しく世話する優しいご主人と喜んだ。しかし本人は「私の人生は、お酒飲んで笑っているだけだから。痛くないようにだけにして。」と、自分の進行癌多発転移とその治療にはあまり興味がないようにも見えた。しばらくコントロールがついていたものの、今年になり病勢が悪化した。

 彼女はいつも機嫌が良かった。機嫌を取る必要もない関係が医師として心地良かった。いつも笑顔でいること、つまり上機嫌でいることこそが人の幸せだと教えてもらった。いつの日か天国で一緒にお酒を飲みたいと心から思った。

 ありがとうございました、ゆっくり休んで下さい。



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